ヤマハファクトリーライダー岡本裕生 最強の挑戦者が、王者に挑む

ヤマハファクトリーライダー岡本裕生
最強の挑戦者が、王者に挑む

挑戦者は最高の条件を生かし、最大限の努力をして、
全日本の絶対王者に挑まなければいけない。
日々の生活はすべてそのために費やす。
でも、それが楽しいし、その先には明確な目標もある。

 「今、焦っていると言えば、焦っているんです」そういう岡本裕生は、今年で24歳になる。MotoGPを目指すには、ちょっと年を取り過ぎていると感じている。現在の低年齢化しているMotoGP界では、ミドルティーンでMoto3で、20歳代前半ならMoto2で、しかも次期MotoGPのシートをうかがおうかという年齢なのだ。現在のMotoGPのシートは、Moto3→Moto2とステップアップして獲得というのが王道だ。SBK(世界選手権スーパーバイク)や各国のスーパーバイクからではなくなってしまった。同じヤマハファクトリーの2021年MotoGP世界チャンピオン、ファビオ・クアルタラロは同じ年なのだ。だからナショナルシリーズで早く圧倒的な戦績を残し、日本のヤマハファクトリーという特別な待遇を生かしてMotoGPマシンのテストを行ない、速さを示し、参戦のチャンスを掴みたい。とにかく早く、圧倒的な……。
 ヤマハファクトリーには、偉大な先輩中須賀克行がいる。中須賀は42歳になる今シーズンも現役バリバリ。全日本JSB1000を昨年も制し、何とV11を達成した。その中須賀とヤマハファクトリーで過ごして2シーズン目。中須賀はライディングやマシンのことを何でも教えてくれる。岡本とは18歳差。年の離れた弟、もしくは親子……。ただし、中須賀は岡本にとって超えなければいけない目前の巨大な壁であることに変わりはない。ある合同テストで岡本は全体2番手タイム。全体1番手は中須賀で、その差1000分の1秒。ヤマハファクトリーが1-2番手だったが。重要なのは岡本が速さではほぼ中須賀に並んだということだ。「速さで上回らないとレースでは勝てない。いろいろ経験では(中須賀が)上なので」(岡本) 相手を抜くというスキルとレースを組み立てるタクティクス(シーズンを考えるとストラテジーだ)では遥かに中須賀が上回るからだ。だから、岡本に今できることは速さの追求なのだ。
 現在、岡本はファクトリーライダーという特権を生かしている。2週間に1度はマシン(JSB1000ファクトリー仕様)に社内テストで乗れて、これは全日本ロードレースの開催レースと事前テストより遥かに多い。その他の日(というより、ほとんどの日々)は、フィジカルトレーニングとダートトラック/モタードのモーターサイクルでの練習に費やすことができる(つまり毎日モーターサイクルに乗ることができる)。MotoGPライダーたちもこうした練習をしている。滑る路面で乗るとやっぱり本番マシンで滑ったときに役立つし、そもそもモーターサイクルに毎日乗れることが重要なのだ。それができるのも、他の仕事をしなくていいファクトリーライダーの特権だ。100%乗ることだけに集中できる。
 岡本はST600時代からずっとヤマハだ。コーナリングスピードの高さがヤマハのマシンの大きな特徴なのだが「僕も特徴がコーナリングスピードなんで、特性が合っている」さらに岡本の特徴のひとつが感覚的なセンサーの鋭さだ。マシンのセッティングに関してもそうなのだが、レーシングレザースーツでもそうなのだ。「そう言われれば、変更した個所はわかりますね、マシンでもレザースーツでも」このあたりは大先輩中須賀も鋭い感性を持っているから似た者同士なのかもしれない。
 岡本が全身全霊で挑戦し、そして勝ち取らなければならない2023年シーズン。是非、実り多きものになってほしい。

ヤマハファクトリーライダー岡本裕生 最強の挑戦者が、王者に挑む

Profile

岡本 裕生 Okamoto Yuki

1999年7月23日埼玉県八潮市生まれ、同県三郷市在住。6歳(2006年)の時、父の薦めで初めてバイクに乗り、ポケバイを始める。ミニバイクへステップアップ。14歳のとき、チームノリック(故阿部典史さんが設立。監督は父阿部光雄氏)入り。15歳でST600(地方選手権)を始め、筑波と菅生でチャンピオンを獲得。16歳で全日本J-GP2に乗るが、大腿骨骨折・上腕骨骨折などでシーズンを満足に走れず。17歳(2017年)に宗和孝宏氏率いるチーム51ガレージヤマハへ移籍。全日本ST600ランキング3位。2018年18歳でST600全日本チャンピオンを獲得。翌2019年同クラスランキング3位。2020年再びST600全日本チャンピオンに輝く。2021年ST1000にステップアップし、ヤマハ唯一に優勝を成し遂げランキング5位。2022年ヤマハファクトリーに迎えられ、全日本最高峰クラスJSB1000に参戦。表彰台に乗るなどランキング3位を得る。2023年もヤマハファクトリーからJSB1000に参戦。